空に描かれた雲の芸術品は、毎日違う形を作る。
それは時代の流れのように、いつまでも、果てしなく続く。

雲の行き先はいつもどこなのだろうと、少年時代に思ったものだ。
果てしない海の向こうへ続く雲。
それはまだ幼かった頃の俺の、大きな浪漫だったのだろうか。
いや…それは、ただのつまらねぇ妄想だった・・・・・。


冒険の書
〜記憶のアザ、運命の歯車 前編〜





「アズ、何かみえた?」

その言葉も無視し、俺は思い出すように呟く。

「あいつ…どこかで……」

いつもココロの中でつっかかっていた存在。
それは昔の記憶を蘇らせた。

数年前の出来事、それはまだコナユキと出会う前のことだった。








深い森の中、獣道の一本の長い道。
日が昇っているのにも関わらず、道先は生い茂った緑の深さにより、見えない。
鳥や、獣の鳴き声、風のざわめきが耳に届く。

腰まで生えた草は、とても邪魔だ。
何度もそれをなぎ払いながらこの道を進んだ事か・・・。

なぜ俺がこの道を進んでるかだって?
そう、それはこれから始まる運命のために。
これから始まる物語のために、この道を歩く。
まだ知り合ってもいない、誰かのために。
うむ、かっこいいセリフだぜ。

と、自分に浸るのは止めよう…。
大きな霊樹の向こうに、イカレた空気を感じる。
「モンスター」だ。

そいつはバカでかく、身丈は人間の3倍ほどか?体の色は緑色だった。
その目は殺戮の色をしていやがる。
殺しを生きがいとしている、ゴブリンとでも称するのがいいか。
俺を食おうとしているのだろう、すでに奴は攻の身構えをしていた。

「ぐしゅう・・・・・・ぐぅしゅう・・」

汚い鼻息を荒らし、よだれを垂らしている。

木に止まっていた鳥達が飛び立った瞬間、ゴブリンは息を止め
その大きな体を空に浮かした。
図体のデカイ体つきのわりに、早い。

俺は…とっさに振り下ろされた巨大な手から飛びのき、敵からの間合いをとった。
ゴブリンは先を読んでいたのか、地面に突き放った手で砂を握り、投げてきた。
俺もバカじゃない、すぐにマントで砂を振り払い
敵の胸に飛び込んだ。


安易な考えではない、これも作戦だ。

右手から魔導素を感じ、地面から激しい魔力を体に感じる。
まずは奴の顔に「ブレイズシューター」をぶちまけた。
手から放たれたまばゆい炎は、ゴブリンの顔を一気に燃え上がらせた。
その光はとても美しく、火の精霊がまるでダンスしているのかの様だ。

しかし、これだけじゃゴブリンは仕留めることはできない。
顔が黒く焼けたゴブリンは、地面が揺れるほどの咆哮をあげ
がむしゃらに腕を振り回す。
その隙に俺は敵の後ろに回りこんだ。
ゴブリンはもう目は見えない。

俺は地面を蹴り、一気にそいつの首の付け根に飛んだ。

「俺を相手したのが悪かったな。逝け!!!」

左手にとてつもない火のイメージを固める。

荒れ狂う火を!!!
激しく燃え上がる炎よ!!!
燃え上がれ!!
燃え上がれ!!

左手をゴブリンの首に着したその時だった。
俺の背中に激痛が走った。
直線にゴブリンの方に飛んだ俺の体は、急に90度方向転換する。
地面に激しく叩きつけられ、受身をとることさえ忘れる力だった。




しくじった…ゴブリンは1対じゃなかったのか。
目の前に見える大きな巨体は、3。
背中の打撲のような痛みは、大きな木の棍棒が投げられていたからだ。
俺としたことが、こんな奴らに不覚をとるとは。
地面に叩きつけられた衝撃のせいで、うまく息ができない。

ゴブリンの1匹が俺に向かって走り出す。
…だが、俺は笑みを浮かべた。

走ってきていたゴブリンが急に爆炎に巻き込まれた。
大きく燃え上がる炎に、ゴブリンの黒い影が映る。
周りの木々をも巻き込み、真っ赤な地獄のような絵図が出来上がった。
これが、仕込みブレイズシューターだ。

そう、俺は吹き飛ばされた時に、左手に残った魔力で地面に罠をしかけていた。
もし空中で敵を察知できていなければ、できなかったことだろう。

仕掛けていた罠の魔力が消失し、辺りは静まり返った。
罠に飛び込んだゴブリンは見る影もない。

1匹のゴブリンは狂ったように腕を振り回し、大木をなぎ倒している。
1匹のゴブリンは大きな目を開けこちらを見て唖然としている。
俺は息の調子が戻る間、両手に雷のイメージを固めていた。
とてつもない静電気で髪が浮いているのは内緒だ。

ピリッと電気が両手に生じた瞬間、俺は1匹のゴブリンに指差した。
一瞬にして全ての電気が奴の上空に放たれ、その脳天を貫いた。
ものすごい雷撃は太鼓を叩いたような音で森に轟く。
そして頭にポッカリと穴が開いたゴブリンは、気絶したかのように倒れこんだ。

残ったゴブリンは、顔の焼けた緑色の巨体だ。
いい加減に逝ってくれてもいいだろう。
背中がまだ痛みを感じるが、その場を立ち上がった。

「さて…よくもこの俺様に傷をつけてくれたな。代償は大きいぜ…」

にたりと不敵な笑みを浮かべた俺は、アサシンダガーを腰から抜き出した。
これは急所を刺すとき、とても便利な小刀だ。

「ん、どこがいいかな」

ゴブリンの急所を見定めていたその時だ。

「わ、わあああ!!!!」

まだ幼いガキの声が聞こえた。
この時、初めてそいつに出会った。
勇者と呼ばれる、運命の歯車を…。

TO BE CONTINUED