約束の町。
それは、俺が昔訪れた、小さな町の話だ。
猛暑の中、俺は一人、広陵とした丘を歩いていた。
永遠に続くと思える一本道。空は雲ひとつなく、深い青色である。
空と丘の緑が美しく映え、一枚の絵になりそうだ。
しかし、その絵も陽炎により揺るがされている。
それほど暑い日だった。
時々吹き付ける風も、熱風と変わらない。
久しく木陰に入るとしても、それは一瞬の安らぎである。
人気もなく、ただずっとこの道を歩く。
体中は汗だく、額からは滝のように汗が垂れる。
唯一出ている顔の肌も、焼け付く太陽の光に刺される。
もうだめだ。
行く先に一つの大木が見える。
その中で一休みをしよう…。さもなければ日干しになってしまう。
木陰に入る。一段とコンストラクタが落ちる。まるで別世界だ。涼しい。
その大きな木には、ほのかに精霊の恩恵を感じる。
この木は…昔から多くの人達に安らぎを与えているのだな。
俺は背中の荷物をその場に置き、カラカラになった喉を潤すため、腰から缶の水筒を取り出した。
「…うそだろ、カラかよ。くそー…」
ずっと前に休憩したときに、全ての水を飲み干したのを思い出した。
俺は水筒を投げ捨てた。
どうしよう。氷魔法を唱えて水にするか?…却下、そんな力さえない。
その時だ。木の反対側から可愛い声が聞こえた。
「どうなされましたか?旅人さん」
木から妖精、いや天使が現れたかと思った。
白いワンピースから、また白い肌が見える。その髪は深く黒く、長さは腰まである。
とても笑顔が可愛い。
「ああ、水が切れてしまってな。困ってるところだ」
その子は、ビックリした顔をして答えた。
「それはいけません!よかったら私のお水を飲んでください」
その子は肩から下げた小さいポーチから、木の水筒を取り出した。
焦って取り出してるところが、また可愛い。
「すまんな、助かったよ」
黒髪の女の子から水を、自分の水筒に少し分けてもらった。
分けてもらった分を一気に飲み干した。喉が潤される。
その子はニコニコしてこっちを見ていた。
「あの、旅人さんはどこへ向かわれるのですか?」
「ん?…そうだな、どこへと聞かれても行くあてはないよ。しいて言えば、探し物かな?」
女の子は目を輝かせながら、質問をしてきた。
「探し物ですか?それは人ですか?物なのですか?もしかして、恋人さんですか〜!」
「おい、待て待て。質問は聞いてやるから、ゆっくりしてくれ」
顔が間近に迫っていたその子は、顔を真っ赤にして謝り始めた。
「そうだな…探し物は、あるようで無くて、見つかりそうで見つからないものだ」
「ぅ?ナゾナゾですか?」
一瞬、俺はキョトンとした。俺は声を上げて大笑いした。
「ご、ごめんなさいっ。変なこと言っちゃいましたか?」
「いや、面白いな君は。名前は何ていうんだい?」
「名前は…MP-228です」
「ふむ、えむぴーにーにー…って、え?」
そういう名前は聞いたことない。俺は異世界の人と会ってるのかと思った。
「あ、ごめんなさいっ。これは元の名前で、皆からエミーナと呼ばれてます」
元の名前?皆?
謎が謎を呼ぶ。やはり俺は道の上で倒れて、夢でも見ているのだろう。
しかし、頬をつねってみたが、現実世界だった。
「あの、やっぱりおかしいですか?こんな名前…」
「いや、珍しいな。なんかの記号かい?えむぴーなんとか」
エミーナと呼ばれている子は、少しうつむせになった。
やばい事聞いたかな。
「あ、はい。色々忘れちゃいましたけど、私がちっちゃい時にそう呼ばれてました。
…それだけしか覚えてないのですが…」
これ以上聞いたら、エミーナの顔が地面に埋もれてしまいそうなので、話題を変えよう…。
「皆って言ってたよね?この近くに町があるのかい?」
さっきまでうつむせていた顔が嘘だったみたいに、明るくエミーナは答えた。
「はい!この近くにマイルセードという町があります!皆さんいい人ばっかりで
…あっ、そうだ!旅人さんは、今日はどこかお泊りになる予定はありますか?」
「いや、無いよ。この道もどこまで続いているか分かんないしな」
「それでしたら、マイルセードにいらっしゃいませんか?お泊りできる所も案内します!」
俺は感づいた。
この子は、人の優しさによって立ち直った感情。
そして、マイルセードという町で小さい時から育ってないこと。
男が危ないということを知らないこと。くくく…。
「旅人さん?どうしましたか?」
「うお、大丈夫。何も考えてない。じゃ、連れてってもらっていいかな?」
「やった〜!荷物お持ちします!」
「お、おい」
エミーナはすぐそばに置いていた俺の荷物を両手で持ち上げ、道を外れた丘へと走り出した。
「旅人さん〜遅いですよ〜!」
もうあんな遠くにエミーナが居た。
走らなくてもいいだろうに…。
「エミーナ!」
「は、はい」
「旅人さんじゃなくて、アズ…アズネコでいい」
「…はい!」
to be continued
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