ひとたび仕えると決めたからは、違えるつもりは無い。
所詮雇われ傭兵の身である。
………給料もかなり良い…何故金+白くてまるっこい鳥(アヒル?)のぬいぐるみなのかは未だに分からんが…。
さらに昇格すれば…そのぬいぐるみに腹に袋のある動物(カンガルー?)のぬいぐるみがプラスされるらしい。
………………金をくれ。
だが、仕事は仕事。
公私混同はならぬ、稼げればそれで良いのだ。
それが例え、悪であろうとなかろうと。
俺の仕事は、大魔王ワラの命に従い……勇者一向を消すこと、ただそれだけだ。
「黒竜、おい相棒………獲物が……来る」
傍らで眠っていた黒竜の頭を軽くなでると、きゅい、と鳴いて相棒は顔を上げた。
風に混じる人間のにおいに気が付けは、じっとしていられないらしくバタバタと羽が上下する。
「まぁ、待て……時期にたらふく食わせてやる」
生まれたときから共に居る黒竜は良い相棒だった。
……少々最近サイズがでかくなって、共に寝床に入ることは出来なくなったが。
昔は、傭兵ではなく…騎士の家に生まれ、城に仕える騎士としていたころは…よく抱いて眠ったものだ。
……いつの間にか国は落ちぶれ、戦火に包まれながら…コイツが居なければ俺は今頃墓の中だっただろう。
きゅい、とまた鳴いた相棒の瞳が物言いたげで、俺は少し表情を緩めた。
「如何した…心配しているのか?大丈夫だ、あの魔王を完全に信用しているわけではない…。
アイツの目……あきらかに…お前を狙ってる」
お前をアイツのペットにはさせん。
そう告げるように視線を注げば、大きな図体を持ち上げてバサリと羽を一度振るわせた。
竜という生き物は賢い、人間の言葉など簡単に理解できるだけの知能を持っている。
……中でも、コイツは格別だ、今は言葉は無くても俺の言いたいことを理解してくれる。
大事な………相棒だ、何を考えているのか知らん魔王などに、渡す気はない。
雲の間から満月が顔を出す。警戒を深めた黒竜の様子に、人がすぐそばまでやってきていることを知る。
………此処からは、仕事の時間だ。
『部下Aの苦悩』
「こんの馬鹿犬がぁっ、てめぇのせいで夜になっちまったじゃねぇか!!」
「仕方ないじゃんっ、あんなとこにモンスター居るなんて全然思わなかったし!
ひきゃんっ、雪だるさぁんっ、助けて!」
「―――まぁまぁ、アズもさぁ、そんなに怒ると頭に血が上って血管破裂するよ」
(………いいのか、勇者一向がこんなに夜遅く森の中、
何処からモンスターが現れるかも分からん状態で大声を張り上げて…襲われたいのか)
「雪ちゃん……抱っこ」
「クウ、疲れた?抱っこはちょっと…剣が構えられなくなるから、おんぶで良い?」
「うわぁい☆雪だる大好きーー」
「………コマンド甘える、戦闘外使用とは侮れませんね……。
雪さん、大丈夫ですか?貴方が弱ると戦闘レベルが低下しますから気をつけてくださいね」
(おい、こんな所でパーティの弱点を暴露していいのか?
敵がいつ襲い来るかもしれない森で、誰が聞いているか分からないのだぞ?
しかもそんな場所でおんぶというのは…自殺行為ではないか)
「すずちゃーん、疲れてないかい?俺が背中に乗っけてあげようか、何なら俺の上でも下でも………」
「きゃあ、アズネコったらっvvvVでも、私は大丈夫よ?」
「あ、アズしゃんアズしゃんっ……俺、足痛いっ、すっごく疲れたっ!」
「…………オラ、とっとと歩け、板犬」
「ふえぇん、雪だるさぁーーんっ」
(……何だ、何なんだ一体コイツらは!!!!
つまりだ、雪だる…という名前の奴が、弱みだというのは察すことが出来るが…)
頭を潰せばパーティなど簡単なものだ。
風に口元を隠す長い布の端をたなびかせ、木の上からふわりと地面に降り立つ。
闇の中で光る、幾本ものナイフの色に……やはりいち早く気が付いたのは雪のような男。
背中に少女を乗っけたまま、ゆっくりと剣を抜く。
途端に緊迫した空気が間に流れた…この隙の無い気配、やはりコイツが勇…………。
「げひげひげひ〜シェードーーー」
「いっ、行き成り何をするんだっ、ジュン!ま、前が見えな…」
「敵敵発見〜、ベノベノベノベノベノム・ポリューション〜〜〜♪」
「ちがっ、敵はこっちじゃ……ぐは……」
(勇………者?まて、あの剣士より黒尽くめのほうが強いのか!?
ということは、あの黒尽くめが勇者!!??)
背中に乗った少女ごと、味方の魔法を受けて大騒ぎする男は……どうやら勇者ではないらしい。
だが、あの黒尽くめ………かなりできる、ような気がしてきた…。
こうしている間にも、視界を塞がれて足掻く剣士の上に容赦なく毒の魔法が降りかかる。
やはり、あの女……只者ではない!
「おい、そこの黒い女!前に出ろ、大人しくすれば他の奴らに危害は加えん」
「―――アタシ?でーすーのーぉ……」
「……前に出ろ、そして俺と勝負しろ」
「良いですわよー、げひげひげひ……勝負勝負ですわー」
珍しくヤル気をだしたジュンに、パーティから驚きのどよめきが上がる。
だがいち早く我に返ったコナユキが毒に膝をつきながらも顔をあげ仲間の身を案じた!
「止めるんだっ、ジュン、一人では危険…ッ」
「先制攻撃、ベノベノ〜ム・ポリューションですわ〜」
「ぐは………」
「こ、コナユキぃいいいいっ!」
容赦ない暗黒魔法に、再び地面に沈むコナユキ。
クウの絶叫とジュンの笑い声が響いた。
「げひげひげひ、間違えましたですわ〜〜」
「おい、お前の相手は俺だ………」
何故か敵に背を向けて、パーティのほうを向いているジュン。
敵ながらに段々と気の毒になってきた敵の男は、オズオズと片手を上げてアピール。
が………ジュンは振り向かなかった。
「次、行っくげひよ!!げーひげひげひげひ」
「いや、だからお前の相手は俺……」
「ベノム・ポリューション〜〜ポリューションポリューション〜ですわ〜」
「きゃいんっ!!もう駄目……」
「っ、くぅ……これまでか……」
ミノリゴ、アズネコ、戦闘不能。
仲間のあまりの惨状に、
もうピクリともしないコナユキの体をぎゅっと抱きしめていたクウが、
グィっと涙を拭った立ち上がった。
その瞳は決意にあふれ、
ビシリ、と敵である男へと向かって……ではなくジュンを指差して高らかに宣言した!
「っ、ひぐ……この悪魔っ、大盗賊クウ様がコナユキの敵をかならずーッ!」
「ベノム・ポリューション〜げひげひ〜〜」
大盗賊クウ、戦闘不能。
「クウちゃんッ、クウちゃんっ!!確りしてぇっ!」
がっこんがっこんがっこん。
肩を掴んでとりあえず前後に揺らしまくるスズサの背後に迫る黒い影。
「げひげひげひ、あと2人〜ベノ……」
『自業自得ですよ――ホーリーフレイム!!』
『煩い寝てろ――ソーン!!』
「げひ?…………げひぃっ!?????」
他方から同時に上がった声に、さらに犠牲者を増やすかと思われた暗黒魔法は姿を消した。
……其処には座り込んだスズサと、
ギリギリ避けられた聖魔法によりプスプスと黒い煙を上げる大地、
その横で、眠りの魔法によりぐっすり眠り込むジュン。
ス、と膝を折って手を差し出したヒビキが心配そうに覗き込む。
「お怪我はありませんかっ」
「うんっ、大丈夫よ。ヒビキ有難うっ、と…ジュンちゃん眠らせたのは…あなたが?」
「…………貴方がスズサさんを助けようと……?」
魔法詠唱が重なった、その声主は、敵かと思われていた男だった。
ナイフをしまいこみながら、問いかけに顔を上げて…瞳を細めてクルリと後ろを向き。
「…………俺は今日は帰ることにする」
何故か疲れた背中で天へと向かって手を掲げる男。
同時に森の中から黒竜が姿を現し、地面に降り立つと同時に飛び乗って空高くへと舞い上がる。
「俺の名は……いや、大魔王ワラに仕える部下Aとでも言っておこうか。
また会おう――それまでに、その黒くて怪しい勇者をもっと鍛えておくんだな」
「待ちなさい」
去ろうとした彼へと向けて、ヒビキのランスの先が向けられた。
今にも魔法が飛び出しそうな空気の中で、ゆっくり口を開いた彼女は……。
「か弱い女二人に、ボロボロのメンバーを町まで運ばせる気ですか?
どうせ助けかけたなら、人間最後までキッチリと助けるものですよ」
暫し沈黙がその場を支配した。
その後……結局、竜から降りて手伝ってしまう、最後まで哀れな部下Aの姿が其処にあった……。
TO BE CONTINUED
|