昔は 強くなることなんて 興味なかった
今のまま 生きていければいいと 漠然と考えていた
でも 今は違う
「強く・・・強く、なりたい・・・・・・」
それはこの旅に出て、初めて生まれた気持ちだった。
『心』
通り雨と同時に始まった戦闘は、雨が止む前に終わっていた。
いつもなら相手のモンスターを全て撃破しての戦闘終了。
しかし、今回は違った。
地面に残されていたのはモンスターの死骸ではなく、ヒトの血痕。
敗れたのはミノリゴ達の方であった。
雨が上がって、日が傾き始めた頃
戦闘があった場所からそれほど遠くない小さな洞窟に、火が灯った。
彼女達は死んではいなかった。
しかし、生きていると断言することも・・・難しい状況だった。
薄暗い洞窟の中、ミノリゴは涙でぐしゃぐしゃになった顔で皆を見た。
ヒビキ、コナユキ、アズネコ・・・ミノリゴのそばにはその3人が横たわっていた。
皆血にまみれて、動けないのかぐったりしている。
息はしているようだったが
頼りなく巻かれた包帯からは少しずつ、血が滲んできていた。
ミノリゴはつたない知識で応急処置を施したが、それでは到底補えないほど
皆、深手を負っていた。
まともに動けたのは、ミノリゴだけだった。
先の戦闘でミノリゴ一行はバックアタックで敵に遭遇した。
まだ能力的に乏しいミノリゴはみんなの後ろを歩いていたため
不意打ちの影響をモロに喰らった。
コナユキはそのミノリゴをかばって負傷、他の二人も陣形を乱されたため
深手を負った。
ミノリゴは持てる力を尽くして何とかモンスターを追い払うことに成功したが
結果は悲惨なものだった。
誰も喋らない、誰も動かない時間が続く。
カッチコッチと、誰かが所持している懐中時計の音が洞窟内に響いた。
その中で一人、ミノリゴは自分を責め続けていた。
「僕をかばったせいでコナユキは・・・他の二人も僕さえいなかったら・・・」
考えても仕方ないことばかり、後悔の念ばかりが彼女を襲った。
ぎゅうっと頭を抱え、座り込む。
「みんな・・・みんな僕のせいだ・・・」
孤独の時間が悩む時間を与え、心を侵食していく。
それが嫌で今までずっと悩んだりすることなく生きてきた。
悩んだり苦しんだりすることから逃げて生きてきた。
孤独も悩むことも みんなみんな怖くて 立ち向かっていく勇気がなかったから
傷付いた3人の傷口が怖くて見れない。
それは、決して自分がつけた傷ではないはずなのに
自分がつけた傷のように見えたから。
それでも何とか滲む血を止めようと3人の包帯をきつく巻き直した。
「僕が、居なかったら・・・こんなことにならなかったのに」
ヒビキとコナユキの包帯を巻き直し、最後にアズネコの包帯を替えようと
近寄りながらそうつぶやいた時だった。
「そんな悲しい事・・・言うなよ。馬鹿犬」
「!?」
ぴくぴくっと唇が動き、アズネコがぼそりとつぶやいた。
そして、ゆっくりと上半身だけ起こして洞窟の岩壁に寄りかかった。
その顔に、いつもの余裕は消えていた。
「き、気がついてたの・・・?だ、大丈夫?まだ動かないほうが・・・」
「平気だ。ちょっと不意打ち喰らってあせったが
お前らとはくぐり抜けてきた修羅場の数が違うんでね。すぐ回復する。
ちょっと休んだら他の二人に回復魔法かけてやるよ」
「・・・良かった・・・。傷薬とかもう無くてどうしようかと思ってたんだ・・・」
アズネコの復活に少し安心したのか、ぽろぽろと泣き出すミノリゴ。
それは、いつも何かに怯えてビービー泣く時に見せる涙は違う
「優しさ」の涙だった。
アズネコはそれを見てちょっと戸惑ったが、いつものように言葉を繰り出す。
「馬鹿・・・泣くんじゃねぇよ。後な、『僕が居なかったら〜』って言うのも駄目だ」
「だって・・・ホントのことじゃないか・・・。
僕が居なかったら、皆こんなに傷付くことなんて・・・」
「―――――っ!」
パンッ
ミノリゴがそう言い終わるか否かの時点でアズネコが手を上げた。
洞窟内に小気味良い音が響いた。
「だから、そんなこと言うんじゃねぇって!・・・誰も、お前を責めてなんかいないし
居なかったら良かっただなんて、思ってねぇよ!」
「ぅ・・・」
アズネコはミノリゴを今まで見せたことのない形相で睨み、声を荒げて言った。
ミノリゴは赤くなった左の頬を押さえ、アズネコを見ようとしたが
目を合わすことが出来なかった。
そんなミノリゴにアズネコは目を合わせろといわんばかりに両手で
彼女の顔を押さえ、無理矢理顔を向けさせた。
そして、低い声で囁くように言い聞かせた。
「今は、そんな事考えてる時じゃないだろ。まだ、皆生きてる。
死んじゃいないんだ。動けるお前がしっかりしないでどうする!?」
「・・・ぅ」
「・・・それにな、お前は皆と旅をしている。
それは変えようもない事実だし、やり直しなんてきかないんだ
・・・わかるな?」
「・・・うん」
「なら、もうそんなこと言うな」
「・・・・・・うん」
そこまで言うと、アズネコはすっと表情を変えた。
朗らかで、さっきの顔とはまるで別人だった。
アズネコの手から開放されたミノリゴはしばらくうつむいていたが
そのうちまたボロボロと涙をこぼして泣き出した。
「ごめんね・・・こんなふがいない勇者で・・・」
今までずっと嫌な事からは逃げ出して生きていた
武術も魔術も何も出来ない自分から逃げて生きてきた
それでも良いんだ、僕は僕だからと自分に言い聞かせて
でも、それじゃ駄目だって気付いた
出来ないならやれるようになれば良い
皆みたいに凄くなくても良いから・・・せめて人並みぐらいには
僕は、僕は・・・・・・
「強く・・・強く、なりたい・・・強くなりたいよ・・・」
涙を流しながら喋ったこの言葉は聞き取りにくいものであったが
アズネコはちゃんと理解していた。
「なれるよ。今からでも遅くない。お前が頑張ろうと思えば、大丈夫だ・・・。
だからもう泣くな。明日から俺が稽古つけてやるからさ」
アズネコの指が彼女の緑の髪に優しく触れた。
その指は血に染まっていたが、ミノリゴはそのことには触れず
彼の言葉に対して、小さく頷いた。
その後、「少し休む」と言ってアズネコが眠りに落ちた。
ミノリゴは一晩中3人の看病を続けた。
少しでも自分に出来ることがあるとしたら、今は皆を見守ることだけだ
そう、自分の中でつぶやきながら・・・
―――次の日
「心配かけてすいませんでした」
「ホントごめんね。ミノリゴ、アズ・・・」
早朝目を覚ましたアズネコは、急いで二人に回復魔法をかけた。
ミノリゴが必死で看病していたおかげか血は止まってたので
みるみる二人の傷は癒えてなくなった。
その1時間後コナユキが、そしてその30分後にヒビキが目を覚ました。
まだ調子の戻らない二人が、申し訳なさそうにミノリゴとアズネコに詫びた。
「全くだ。こんな事態に巻き込まれるならもっと金貰っとくべきだったかな。
追加料金払えよ、ミノリゴ」
「ホントに稽古つけてくれるんなら払ってあげても良いけど?
とにかく二人とも、元気になってホント良かったよっ」
アズネコの悪態にむっとしながらも、ミノリゴは屈託のない笑顔を見せた。
その笑顔にヒビキとコナユキの二人もふっと微笑む。
「それじゃあ早いところ近くの町に行ってちゃんと休もうか!
傷薬も切れちゃったし、皆血だらけだもんね〜」
くるくる〜っと嬉しそうに一回転するとミノリゴはそう言った。
貴方も血だらけでしょうが、とヒビキは呆れながらつっこむ。
それを優しく見守るコナユキ。無愛想にそっぽを向いているアズネコ。
いつもの、いつもの感じ。
ミノリゴはそれが嬉しくてたまらなかった。
「・・・ねぇ、何か顔つき変わったね、ミノリゴ」
洞窟から最寄の町へ向かう途中、コナユキがミノリゴにこんなことを言った。
「そう?どんな感じになった?」
「何て言うか・・・つきものが取れた、って感じかなぁ。
前は常に怯えてるって感じがあったんだけど・・・それが消えたよ」
「じゃあ、俺は変われたって事かな?」
そう言うとミノリゴはコナユキの顔を見てヒヒヒ〜と笑った。
まだ、勇者としての貫禄などこれっぽっちもなかったが
確かに前より気持ちだけはちょっと強くなったんではないかと
ミノリゴ自身も感じていた。
今度あんなことがあっても、もう二度と弱音なんかはかない。
ううん、もう二度とあんなことにはさせない。
・・・・・・もうしばらくは皆のお荷物だけどね。
ミノリゴの進む足は軽やかだった。
TO BE CONTINUED
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